緊急地震速報

阪神・淡路大震災から27年、東日本大震災からは11年が経ちましたが、この間にも大きな地震が各地で発生しています。また、政府の中央防災会議によれば、南海トラフ地震と首都直下地震は今後30年以内に発生する確率が70%と高い数字で予想されています。
今後も、大規模な被害が生じ得る地震災害の発生を見据えて、防災への取組を更に強化していく必要があります。

日本は世界に先駆け、「緊急地震速報」と呼ばれる地震警報のシステムを2007年10月から本格的な運用を開始しました。
弊社は2012年からこの緊急地震速報を利用した災害通報支援システムの開発に携わってきた経験をもとに、今後この緊急地震速報に関連した記事を随時掲載していきたいと思います。
まず、今回はこの緊急地震速報の基本的な内容について解説していきます。

概要

緊急地震速報(EEW:Earthquake Early Warning)は、気象庁が中心となって提供している地震早期警報システムです。全国約690箇所の気象庁の地震計・震度計に加え、国立研究開発法人 防災科学技術研究所の地震観測網(全国約1,000箇所)を利用して、多くの観測点のデータを活用することで、地震が起きたことを素早くとらえることができます。
緊急地震速報にはテレビ放送やラジオ・携帯電話などで配信される「一般向け」と、地震動の予報業務許可事業者が配信する「高度利用者向け」の2種類があります。

2種類の緊急地震速報の違い
一般向け高度利用者向け
発表者気象庁気象庁および地震動の予報業務許可事業者
発表対象テレビ、ラジオ、携帯電話など通じて広く一般に提供契約利用者に配信
発表基準2地点以上の観測点で観測され、最大震度5以上と予測された場合に、予測震度4以上の地域に発表100ガル以上を観測、またはマグニチュード3.5以上か最大震度3以上を予測
発表内容・発生時刻
・震源の位置
・予測震度4以上の地域名
・発生時刻
・震源の位置
・最大予測震度
・予測震度4以上の地域名と予測震度、主要動到達予測時刻
・登録地点の主要動到達予測時刻
仕組み

震源近くの観測点で検知した地震波(初期微動、P波)から震源の位置(緯度経度と震源の深さ)や地震の規模(マグニチュード)を推定し、強い揺れの地震波(主要動、S波)の到達前に、各地の揺れの強さや到達時刻を予測するものです。

P波とS波

地震が発生すると、最初に小刻みな震動や突き上げるような震動があり、その後に大きな揺れが起こります。
最初に起こる小さな揺れを「初期微動」と言い、それに続く大きな揺れを「主要動」と言います。
これらの揺れは、震源から放出されるある地震波によって引き起こされます。
初期微動を引き起こす地震波をP波(Primary Wave)と言い、もう一方の主要動を引き起こす地震波をS波(Secondary Wave)と言います。
地面を伝わる速度がP波(秒速約7km)の方がS波(秒速約4km)より速く伝わるため、震源からの距離が遠いほど、P波とS波が到達するまでの時間差が大きくなります。

「一般向け」緊急地震速報

「一般向け」緊急地震速報(警報)は、2地点以上の観測点で地震波が検知され、最大震度5弱以上と予測された場合に、予測震度4以上の地域に対して発表されます。
また、緊急地震速報を発表した後のさらなる解析により、震度3以下と予測されていた地域が震度5弱以上と予測された場合に、続報が発表されます。
続報では、新たに震度5弱以上および震度4が予測された地域が発表されます。

「高度利用者向け」緊急地震速報

「高度利用者向け」緊急地震速報(予報)は、いずれかの観測点1点で100ガルを超える加速度を観測した場合、もしくは解析した結果がマグニチュード3.5以上または最大震度3以上と予測された場合に発表されます。
「高度利用者向け」緊急地震速報は、地震が発生したことをいち早く知らせるために第1報を優先的に発表し、その後2つ以上の観測点で地震波が観測されれば、さらに解析を行い第2報、第3報と発表を更新していきます。
地震動の予報業務許可事業者は、発表された「高度利用者向け」緊急地震速報(予報)をもとに、地点ごとの予測(予測震度、主要動到達予測時刻)を行うきめ細かなサービスを提供しており、専用の受信端末を設置したりすることで個人や事業者などの契約利用者がこのサービスを受けることができます。

技術的な特性や限界

緊急地震速報の技術的な特性や限界は以下の通りです。

  • 緊急地震速報は、地震が発生してからその揺れを検知し、解析して発表する情報です。一般に、地震が発生してから強い揺れが到達するまでの時間は、数秒から長くても数十秒程度と極めて短く、場合によっては緊急地震速報が強い揺れの到達に間に合わないことがことがあります。
  • 解析や伝達には一定の時間(数秒程度)がかかるため、内陸の浅い場所で地震が発生した場合などは、原理的に震源に近い場所への緊急地震速報の提供が強い揺れの到達に間に合いません。
  • 短時間で得られた観測データから地震の規模や震源を推定し、各地の震度等を予想するため、予測震度は精度が十分でない場合があります。また、予測の誤差により、緊急地震速報(警報/予報)の発表基準を満たさず、緊急地震速報(警報/予報)が発表できない場合があります。
  • 震源の深さが150km以深の深発地震では予測精度が十分でないことから、緊急地震速報(予報)は震度を予測できません。

多くの技術的な課題を抱える緊急地震速報ではありますが、強い揺れの前に、自らの身を守ったり、列車のスピードを落としたり、あるいは工場等で機械制御を行うなど、あらかじめ予想できる危険の回避や被害の軽減が期待できるというメリットもあります。

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